偉大なバッハの放蕩・長男坊の悲哀

2021/09/18 []

J.S.バッハの息子というと一般的に著名なのはモーツァルトやベートーベンにすら影響を与えたと云われる次男カール・フィリップ・エマニエルや、末のヨハン・クリスチャンですが、
実のところ頑固親父セバスチャンが一番期待し溺愛していたのはやはり「長男」。
ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ(1710-1784)だったのです。

母のアンナ=マグダレーナも手記(講談社学術文庫)で包み隠さず書いているくらいの猫可愛がり様で「平均律クラヴィーア曲集」も彼の為に書かれたと言っても過言ではないのです。
事実、彼は非常に多作で才能もある音楽家でしたが、やり放題をしていても「大バッハの七光り」で高い地位に着けられたり、大きな期待が仇になったのか、有能な弟の陰に隠れてしまうばかりか悪名高い「馬鹿息子」振りにスポットが当たっています。
しかし、彼の遺した(保管すらいい加減だったらしい)作品を聴く限り、彼はとても繊細な男だったと思われます。
偉大な親と比較され、周囲からの期待や嫉妬が重圧になり、思うように花開かなかった悲哀すら感じさせるのです。
私は実際に幾つか作品を演奏してみましたが、同時代の巨匠と比較してと見劣りはしませんし、やはりバッハの息子だなと思わせる特別な感性があります。
近年、彼の作品が見直されつつあることはスキャンダルで「芸の才能」を潰すこと甚だしい現代社会へ一石を投じる良い機会と成りうることでしょう。

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