赤線地帯

2016/12/19 [映画・映画音楽]



【溝口健二の遺作】

🔷赤線地帯(1956)

監督:溝口健二
脚本:成澤昌茂
 出演者:若尾文子、京マチ子、沢村貞子、加東大介
 音楽:黛敏郎
 撮影:宮川一夫

当時は「女の知らない女の世界」と銘打ったポスターも。現代でも相も変わらず、知らない女は知らない、知っている女は...。
 「女性の為の売防法」政府は常に正しい。
いや、正しいという建前を振りかざす。

しかしその中で、一生懸命育てた息子に「穢い(きたない)」と言われ気が振れてしまう女。
 遊蕩三昧で母を苦渋のうちに死なせた父が事業を始めるにあたり、「娘が吉原では世間体が悪い」と迎えに来たのを「遊んでくかい?」とやり返す女。
 入れ込まれた男に結婚を匂わせた挙げ句に会社の金まで使い込ませ、破綻する男を尻目にその金で抜け、新事業を始める女。
 田舎から訳も分からず送り込まれてくる生娘に「私もこんなことはさせたくないんだよ」と言い聞かせる女将。

この映画には「悪」も「正義」も無い。
 「本物の人間」を淡々とただ描いている。若尾文子、京マチコの何と美しいことか。
それだけが脳裡に焼き付いた。

その背後では、まるで「お化け屋敷」のような黛敏郎のオンド・マルトノ(実は「クラヴィオリン」という1947年フランス製の代用楽器でありビートルズも使ったことがあるらしい)の「ポヨヨーン」という響きが人間を嘲笑うかのようで不気味である。
ある意味「女は妖怪」、男は「妖怪」ですらなく「滑稽な存在」。

それにしても何というバランス感覚。
 安っぽいロマンスでも、社会を糾弾するドキュメントでもなく、人情ものですらない。
ただそこにあるものを淡々と描いている。

天才の遺作とは意外にも「無」なのかもしれない。

「今宵はここまでに致しとうござりまする」(わかる人居るかな)
 

音楽豆知識

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