【「ブルーノートと調性」濱瀬元彦・著のラッセル批判について】

2019/07/14

 

 

ジョージ・ラッセルの「リディアン・クロマティックコンセプト」は自然倍音に見られる「First Bias(最初の偏り)」で線引きをしているので近親関係が「C-G-D-A-E-B-F#」となります。

西洋音楽の歴史から見て最も主流と思われる「7音スケール(連続した半音は含まない)」を作る場合に「Virtical」に見ると「Maj」よりも「Lydian」が「Tonic」として相応しいというとてもシンプルなものなのです。

 

濱瀬さんの批判は実は「倍音」に拘る限りは確かに合ってはいるのです。

倍音なら「C-G-E-B♭」が普通であると。

例えば、これを元にスクリャービンが「神秘和音」(Lydian7th)を導きだし、実作に使ったりしています。

 

彼はそこに「恣意性」があり、不自然であるということ、更にヒンデミットの音程根音の考え方にも近似しているのに、ラッセルは一言も触れていないのはおかしいと指摘しています。

 

これは実は基本となる「物差し」をどこに持っていくかの問題なのです。

 

そもそも倍音は「長三度音程」(第5倍音)からして純正律からズレているのです。また、通常の聴覚でこの長三度を明確に聴き取れる人の絶対数がどれだけいるでしょうか。

恐らく経験やソルフェージュで鍛えられ(ある種の強制)たため無意識のうちに補っているはずです。

 

それはそれで勿論、構わないのですが最もプライムな状態(音が発音された瞬間)から認識可能な変化までを基盤に置いたことにより、一音についてシンプルな判断が下せる様になることのメリットはとても大きいのです。

 

倍音をどこまでも追っていったところでクラスターになるだけであり、それであれば単音の時点で無調、クラスターということになります。

 

また、下方倍音という有りもしない仮説を立てお得意の分析を繰り広げても、そのメソッドに雁字絡めになりながら音楽を創造していくことを楽しめる人は「リディアン・クロマティック・コンセプト未満」の人口であると予測されます。

 

数学が「0」を置いたことにより前に進んだ様に、どこに基点を置くかは極力シンプルなものに限るのです。

私もなぜ、宇宙ができたか、生物が生まれたか、無は有るのか(パラドックスですね)に興味はありますが、それは物理学者か宇宙研究者に任せておきましょう。

 

機能和声から自由になるために新たな見方を提起するのに、その見方の体勢を整えるのにまた仮説を組むのはそれこそ「恣意性」が強まるだけなのです。

 

ラッセル自身も何も「リディアンスケールで全てをまかなえ」ですとか「この概念から外れたものは音楽としておかしい」等とは一言も言っていないのです。

 

ただ、あまりにも画一化された機能和声体系から極端にそれを否定したトータルセリエリズム、チャンスオペレーションでは芸がないねと言いたかったかもしれません。

 

この概念は本来の「円環や宇宙」と同様に未だ閉じてはいないのです。

そこから先を自分で探るための指針を示してくれたところが大きいのです。

 

本来の天才は理論など経由せずとも直感的に新星を発見するそうです。

後世の学者が後からその結論を元に仮説を組み立てて証明をしていく。

 

それは帳尻を合わせているだけではないでしょうか。

 

ラッセルの概念ははみ出すところはあるは、これまで捉えられなかった音の連なりも出てくるはそれはそれは大変なものですが、濱瀬さんの一覧表など見ずとも自分で音の取捨選択が出来る様になるのです。

 

「汎調性」が目指すところにあるのですから。

いつまでもメジャー・スケールとマイナー・スケールと何とかスケールと...数百種類の民族音階ととやっていては日が暮れます。

スケール博覧会を開きたい訳ではなく、トニックを捉えやすくするための概念だと言っているのです。

horizontalな調性に目を付けたところなど素晴らしいではないですか。動機がどうしたこうした反転したとかやるより余程自然です。

 

武満徹がそれを体現したではないですか。

彼は本に載っていない様なことをたくさんやっていますが、このコンセプトが「契機」になったと断言していますし、私もコード理論と和声でガチガチになっていた頭が解きほぐされる様な感じがしました。

 

正解を1つに持っていき「メソッド化」しようとするのは理論家の悪い癖です。

パーカーにはパーカーのシステムがあるのだ、システムの無いところに実践はないというのは感覚的には頷けますが実際にパーカーはそれを理路整然と説明はできないでしょう。

 

感覚的なところで止めておけること。

自分を信じられることが芸術家の資質のひとつと言えます。

 

 

 

 

文責:彦坂


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