『J.S.バッハの「旋律と和声の世界」/平均律1-16番フーガ』

2022/06/11

「下属調」提示部
(学習用フーガはⅣmと♭Ⅵで主唱を提示する)

実作を当たってみると、この通りに行なっている作品にはなかなか出くわさないのですが、先述のJ.S.バッハの「平均律クラヴィーア曲集 第一巻/第16番のフーガ(G minor)」は、「Ⅳ度(Cm)」の主唱を二回繰り返した上で、五度上(Gm)で「答唱」を行なっています。
興味深いのは、「答唱」が「F♯-G」と動くときの「タテの調性(和声進行)」は「E♭」に解決している点です。つまり、和声的には「平行長調の♭Ⅵ度(E♭Maj)」に一旦は着地しているのです。

「旋律的」(ホリゾンタル)には「Gm」を指向、「和声的」(ヴァーティカルには「E♭△」という状態ができているということです。譜例は一度目の「主唱」を省き、「21小節目のソプラノ」~「24小節」まで掲載しますので、一緒に分析してみましょう。

【譜例】「平均律第1巻-第16番 フーガ」より抜粋 作曲:J.S.バッハ



この辺りが、「フーガの調性動向」に対して「混乱」してしまう原因かもしれません。「旋律の調性って何?」と感じる方は「機能和声」や「コード理論」から一度、頭を切り替えてみましょう。

本来、「E♭メジャー」であれば、下記の様な「主題(主唱」)になる筈です。

【譜例】「E♭」(Gmの下属調の平行調)を指向した「主題」
対位法1段_0004.png

「学習フーガ」に限らず、「対位法」全般に言えるのですが「機能和声的」に全てを割り切ってしまうと分からない部分や、誤解をされてしまうことが余りにも多いのです。
対位法はあくまでも「旋律」が主体であり、J.S.バッハの対位法はかなり「機能和声」にも配慮したものであるということができます。
実際に彼の手記や言行録には「和声に関しての理解も深めることが大切」という意味合いの言葉が残っているようですから、やはり、彼は「タテ(和音)とヨコ(旋律)」の両方(和声)の調和」を追究していた、(当時に限らず)稀有な作曲家だったのです。


文責:彦坂
 

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