劇伴(インスト)専門と、歌もの専門の作曲家が居るのは何故でしょう?

2022/07/07


ピアニストとギタリストのどっちが「歌もの」に向いている?

これは同じ音楽でも全く書き方が異なるということを考える契機になります。
勿論、コツが分かればどんな楽器でもできてしまうこともあります。(寧ろコードは鳴らさない方が良かったりもします)

とても短い説明では書ききれないほどの要因がありますが下記の数点は参考になると思います。
トップの作家達は意識的にしろ無意識にしろこういった条件を満たしています。


①音域
例えば1オクターブ以内で一曲を書いてみましょう。ヘンリー・マンシーニの「ムーンリバー」はオードリー・ヘップバーンの歌唱可能音域を相当に意識して書かれました。
通常は前後完全4~5度は歌えますし、ボカロの様に何オクターヴも出せる歌手もいますが、それでは器楽的になります。

②フレージング(節回し)
一番重要なのはここです。
ボーカル(歌詞つきの)向きのフレーズとトランペットやバイオリン向けのフレーズは大きく異なります。(構造が全く異なるため)

また、ソロアーティストが自己の内奥を深めていく様なものと、アイドルグループの「歌回し(交互に出たり引っ込んだり)」では当然書き方が変わります。
例えば「ソー・ファミー」の様な単純なフレーズも五人の別の声で流れてくればしつこさは感じません。楽曲も少し長くなっても大丈夫です➡この辺りはカノン、フーガや対位法に通じるところがあって興味深いです。

また、変に複雑なメロディよりもペンタトニックで作る方が「メロディ」が立ってくるのは、ここ最近の打ち込み音源の進化によって更に際立っています。
コードも少しこじゃれた、複雑なものを混ぜるくらいは誰も驚かなくなりました。


③声とフレーズの相性
最近はデモテープで仮歌必須なのは、生の声の周波数帯域とオケ(空の)の、馴染み具合をみてからアレンジをすると、イメージが湧きやすいからというのもあります。
この辺りは、アレンジャーが想像力で補えばいいと思いますが...作曲者の意図がより正確に反映されるというメリットもあります。


④歌詞とブレス(管楽器も同様)
どんなにカッコいいフレーズができても、歌詞のイントネーションや歌詞が持っているストーリーとメロディが持つストーリーがアンマッチになると、曲に不自然さが出てきます。
また、ブレス(息継ぎ)を考えていないフレーズはどこか機械的な印象を与えます。(それを逆手に取ってEDMにしてしまうのも一つの手法)


⑤メロディと歌詞が「相乗効果(シナジー)を起こすか、相殺(スポイル)されるか」

これは、大御所作曲家、作詞家同士でも有り得りますがメロディも強い、歌詞も強いとどこか「作り物」めいてしまい、耳の肥えたリスナーはそれに気付きます。
映像音楽と似た発想で、あくまでも二つがバランスよく成り立っている状態を作ることが理想です。
歌詞だけでは物足りないが、メロディと合わさった瞬間から予想外のバランスが生まれたり、単調なメロディも、歌詞が変わることによりリスナーに強く響くこともあります。
最後は足して「1」になればいいのです。
上手いラップを聴くとそれが実感できるでしょう。

⑥シンガー・ソングライターの強み
専業作曲家と作詞家が作った曲と、全てを一人でやってしまったもののどちらが良いか?
これは一概には言えませんが、世界観を一人でコントロールできる強みは圧倒的にシンガー・ソングライターにあります。
自分で作るので歌詞をメロディに強引に嵌め込むこともできたり、一人で声色を変えてストーリーを束ねていくことも可能です。

また、これも決め付けはいけませんが、平均律のピアノよりも、ギターの方が声を縛りません。ピアノ・アレンジ譜面を弾いたらイマイチだったという経験はピアニストならあるはずです。コードとメロディがぶつかっていたり、それを無理矢理直してあったり...。

芸大和声などをかじると第一転回形で「3rd」が上声部に混じると反射的に「気持ち悪い」と思ったり、平行進行が許せなかったりします(笑)

しかし、歌ものを作るには「旋律の中心」の存在に気付いた方が得です。ジャズのアドリヴで「歌心 」あるねぇ。
なんていう奏者は、やはりそのツボを押さえているのです。



文責:彦坂

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